「なぁお前、最近なんかあった?」 昼休みの職員室、隣のデスクの奴が話かけてきた。鮎川だ。この大学時代からの友人は割りと話の分かる奴で、共に地元であるこの高校の教員になった。 「なんかお前最近やけに楽しそうだぞ」 「そうか?別に普通だろ」 「いやそう言いながらニヤニヤしてるし。それにその弁当、手作り?お前今までコンビニのもんばっか食ってただろ」 そう言って鮎川は俺の手元を覗きこんできた。 「おいいつの間に弁当作ってくれる相手見つけたんだよ」 弁当はもちろん俺が作ったわけではなく、昨日泊まっていった高耶さんが朝持たせてくれた物だ。 「やらないぞ」 「いや…にしてもなんか、渋いな」 「健康志向なんだ」 「そ、そっか。お前が幸せならそれでいいが」 彼がちょくちょく家に来るようになってから、先程のように彼女の存在を尋ねてくる人が多くなった。 実際彼女なんていないが、確かに彼が来てから毎日楽しい。 「そういえは今日、弁当作ってくれたでしょう?同僚に彼女かと疑われました」 夕飯の後だらだらテレビを見てた高耶さんの顔を覗き込む。 学校から来たので制服姿のままだ。 「あー…あらぬ誤解を生ませてごめん」 ちょっと顔を赤くして謝る彼がいじらしく思えて、つい頭を撫でた。相変わらず黒くてサラサラの髪は絹のような手触りだ。 「おいガキ扱いすんな」 「してませんよ」 睨んでくる眼は黒目がちで、なんとも人を引き込む力がある。 ぷいっと顔を背けると台所に行ってしまった。怒らせてしまったかな。 「お茶入れるけど、お前も飲む?」 「あ、いただきます」 高耶さんはヤカンで湯を沸かすと、最近買った色違いのマグカップ二つを持ってきた。 「おいしい」 彼は料理も美味しければ、お茶を淹れるのも上手い。 「彼女というより通い妻ですね」 「な…!!ふっざけんな!誰が か、通い妻だ!!」 顔を真っ赤にして怒るのが可愛らしくていつまでも見ていたい。いや構い倒したい。 この家はこんなに賑やかな場所だったろうか。 いつの間にか食器が増え、冷蔵庫の中は常に色々な物が入ってるようになった。 純粋に、彼が子供のように真っ直ぐ接してくれるのが心地よいと感じた。 next |